波長板は、直線偏光(Linear Polarized Light)の光に所定の位相差(Retardation)を与える光学機能素子です。市場に流通している波長板として、1波長板や1/8波長板等もありますが、最もニーズの高い波長板は1/2波長板と1/4波長板の2種類になります。
1/2波長板(Half-wave Retarders)の機能
1/2波長板(1/2λ板)は、入射光の電界振動方向(偏光面)にπ(=λ/2)の位相差を与えます。入射光の偏光面が波長板の高速軸(或いは低速軸)に対してθ°の方位角で入射した時に、その振動方向を(2×θ°)回転させることができます。従って45°の方位角で入射させた時に最大の回転角(=90°)が得られます。この機能はレーザー光源においては特に有益で、レーザーの偏光面の向きを変えたい場合にはレーザー自身を物理的に回転させることなく、1/2波長板のみで偏光面を動かすことが可能です。1/2波長板の別の応用として、円偏光(Circulor Polarized Light)の光を入射させると、偏光の回転方向を反対回りにすることができます。
1/4波長板(Quarter-wave Retarders)の機能
1/4波長板(1/4λ板)は、入射光の電界振動方向(偏光面)にπ/2(=λ/4)の位相差を与えます。入射光の偏光面が波長板の高速軸(或いは低速軸)に対して45°の方位角で入射した時に、直線偏光を円偏光の状態に変えることができます。また可逆的に、円偏光を直線偏光の状態に変えることもできます。なお45°以外の方位角で入射させた場合は、楕円偏光(Elliptical Polarized Light)の状態になります。1/4波長板は、偏光フィルタとペアで用いられることの多い波長板です。この組み合わせにより、光アイソレーターが構築できます。不要な戻り反射やグレアを取り除く目的で使用されます。
トゥルーゼロオーダー、 マルチオーダー、 コンパウンドゼロオーダー
波長板は水晶や雲母などの複屈折材料(結晶)を基板に用いて作られますが、そのデザインは、トゥルーゼロオーダー(True Zero Order)、マルチオーダー(Multiple Order)、コンパウンドゼロオーダー(Compound Zero Order)の3種類に大別できます。
トゥルーゼロオーダーの波長板は、設計波長において0次で所定のリタデーション(位相差)が得られる「真の」ゼロオーダー波長板です。
0次で特定の位相差が得られるよう、一枚の複屈折材料の板厚を極薄く加工して作られます。例えば550nmにおける1/4波長板を製作する場合、位相差を137.5nm(=550nm×1/4)にする必要があります。水晶(複屈折ne-no=0.0092)でこの位相差を得るためには、水晶の厚さを15・程度(=137.5nm/0.0092)までに薄く加工しないといけません。この板厚の薄さは、機器への固定やハンドリングの際に難易度を伴う場合があります。ただしこのデメリットを除けば、波長シフトや温度変化、あるいは斜入射に対して得られる位相差の安定性は、他の2種類のデザインのそれを凌ぎます。
マルチオーダーの波長板は、トゥルーゼロタイプと同じ一枚の複屈折材料により作られますが、板厚を実用的なレベルにまで厚くする目的のため、高次で所定の位相差が得られるよう設計されています。例えば550nmの波長において3.25波長分の位相差を生じさせた場合、水晶であれば板厚を194・程度にまで厚くできます。3.25波長分の位相差というのは、実質0.25波長分(=1/4)の位相差と見なせる訳です。ただし板厚が厚くなる分、わずかな波長シフトや温度変化等に対しても無視できない位相差ずれが生じるというデメリットがあります。
コンパウンドゼロオーダー(トゥルーゼロオーダーと区別するため、単に「ゼロオーダー」と称することもあります)の波長板は、前述のマルチオーダータイプのデメリットを改善することのできるデザインです。マルチオーダーで製造された2枚の同じ材質の複屈折材料の光軸を互いに直交するように配置することにより、各材料毎に生じる位相差シフト量が互いを相殺するため、得られるリタデーションに対する波長依存性や温度依存性を少なくすることができます。ただしこのデザインでも入射角度依存性を改善することはできません。